「もしもこんなキャンベルスープの缶があったら・・・/If There was Impossible Campbell’s Soup Cans…」森洋史 個展開催

アーティスト森洋史による個展「もしもこんなキャンベルスープの缶があったら・・・/If There was Impossible Campbell’s Soup Cans…」が来年1月11日より銀座 蔦屋書店(東京都 中央区 GINZA SIX6F)内にあるアートギャラリー、FOAM CONTEMPORARYにて開催される。

「もしもこんなキャンベルスープの缶があったら・・・/If There was Impossible Campbell's Soup Cans…」森洋史 個展ポスター画像

森洋史は、古典やポップアートの名画などと、アニメや漫画・ゲームなどに代表されるサブカルチャーのイメージを引⽤し、組みあわせ、 パロディを仕掛けた作品を制作してきた。本展では、これまでにも森が発表をしてきたアンディ・ウォーホルの《キャンベル・スープ缶》をシミュレーションしたシリーズ、「If There was impossible Campbell’s Soup Cans…」の新作が発表される。

展覧会に寄せて

森 洋史

フジテレビ系列で1977年から1998年まで放送された「ドリフ大爆笑」というお笑い番組のコーナーのひとつである「もしもシリーズ」、アメリカンポップの巨匠アンディ・ウォーホルの作品である「キャンベルスープの缶」、同時代に生まれたテレビゲームやアニメなどに見られる数々のサブカルチャーは昭和時代の中後期に日本中を席巻した文明になりますが、上記全てにおいて少年期から青年期にかけて私がのめり込んだものになります。

そして、子供の頃に慣れ親しんだものは47歳に成長してもなお私の脳裏に深く刻まれており、この完成された価値ある文明に着眼、再解釈・再構成したい欲望を抑えきれず、元ネタ方々へのリスペクトを念頭に置きながら、現代におけるアプロプリエーションアートの一端として展開が出来ないかという試みに奮い立った事が本展企画の発端となります。

「もしも、こんなキャンベルスープの缶があったら・・・」というドリフ大爆笑的テーマにて半ば強引なシミュレーションとなりますが、どのような作品群および展覧会になるのか見てみたいという自らの素朴な興味にただひたすらに身を任せ制作に臨んで参りました。

一方で、徒に懐古主義を重んじてはおらず、技法・材料においては古典技法に基づいた概念を踏襲しながらも現代に開発された工業技術などを積極的に採用し制作しています。

私の作品からは作家の手癖や筆致などの動的なパフォーマンスから生まれる身体性は微塵も感じ得ることが出来ず、冷徹かつ無味無臭な感じさえ受け取れるものと思います。

上記については、幼少期に見ていたと思われる超合金ロボット(ダイキャスト(亜鉛合金)を主材として、ロボットの重量感やメカの手触りを表現したキャラクタートイ)と呼ばれる子供向けの玩具の質感に寄せていく狙いがありますが、作家の身体性やイメージに唯一性を求めることの不可能と無意味さをメタとしたハンドメイド至上主義に対するアンチテーゼになります。

印象派の画家達が自然物からインスピレーションを得て作品を作っていた時代から100年以上経過しました。インターネット黎明期から今日まで過ごして来た世代である自分としては、もはや電脳空間を景色として見ている感もありますが、我々は情報過多にある現代社会において何か知りたいことがあれば、信憑性は別としても大抵の場合手間暇かけずに情報を得る事が可能です。このような時代に生きて、身体性やイメージに唯一性を探る事が果たして作家として貫くべき正義なのか甚だ疑問を覚える中、それでも自分のオリジナリティとは何なのかという答えなき答えを追い求める模索は生きている限り続くのだと考えています。

今回、銀座 蔦屋書店 FOAM CONTEMPORARYにて森洋史の新たなパロディ、シミュレーショニズムの展開を発表させて頂きますが、精一杯の私の表現をご高覧頂けましたら幸甚に存じます。

末筆になりましたが、この度の作品展示のために、ご尽力頂いたカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の皆さまやお手伝い頂きました多くの関係者の皆さまに深く御礼を申し上げましてご挨拶とさせて頂きます。

「もしもこんなキャンベルスープの缶があったら・・・/If There was Impossible Campbell's Soup Cans…」森洋史 個展展示風景画像

寄稿|森洋史「もしもこんなキャンベルスープの缶があったら・・・」展によせて

山口裕美(アートプロデューサー)

 アンディ・ウォーホルと言えば、キャンベルスープ缶の作品をイメージする人は多い。1962年、当時販売されていた32種類のキャンベルスープの缶を並べて描き、絵画のようでもあるし、スーパーの棚に並んだ商品のようでもあったことで、まずは人々が驚き、ウォーホルは抽象表現主義を一部侮辱しているとして、批判を浴びた。けれども、なんども繰り返し、登場したことで、当時、高度経済成長の真っ只中にあったアメリカの大量生産・大量消費の象徴の代表的な作品となり、アメリカンポップアートの金字塔となった。

 今回、このキャンベルスープ缶を流用する新作として選んだのが森洋史である。すでに、森洋史は、1980年代に起こったシミュレーションアートや流用(アプロプリエーションアート)などと呼ばれる手法を踏襲しながら、新しいポップアートの表現に挑戦し続けていて、銀座蔦屋書店などでも見たことがある、という方もいるはずだ。彼自身も「あえて既存のイメージを流用することで、鑑賞者へ既視感を与えつつ共感でも反感でも某かの化学反応を起こすことを目的としている」とも語っている。その覚悟や良し。真のアーティストだ、と感じる。

 今回の作品の大きな特徴は、ゲームやキャラクターといった、私たち、鑑賞者が子供のころから身近にあったものをテーマにしていて、細部まで知っていることで、1点の作品を隅々まで楽しめること、である。おそらく、作品の前に鑑賞者が留まる時間が長いのではないだろうか。その時間こそ、作品にとって、最も幸福な時間となることだろう。

 また、技法がとんでもなく手が込んでいて、驚くような工程を踏んでいる。これはネタばらしになるし、その過程があることを、敢えて言わない森洋史らしいダンディズムがあるので、ここでは書かないが、どうやって1つの作品が完成しているのか、を知ると、もっともっと、彼の作品がとても大切であり、手元に置くことの意味や意義、そして自分だけの宝物となることは間違いない。

 1988年4月23日、ニューヨークのオークション会社、サザビーズにて、アンディ・ウォーホルが収集したアール・デコの品々が競売された。この時の記録では、全部で370点。その中には、ウォーホルがパリで、60年代末に買いあさったピュイフォルカの銀の食器などもあった。当時は誰も注目しなかったアール・デコを格安で買い漁ったようなのである。サザビーズのカタログの序文には「アンディは生涯コレクターだったのではないか」と書かれている。実際、彼は映画雑誌や時計のコレクターだった。私の勝手な想像ではあるが、ウォーホルは目利きの“おたく”だったのではないか、と思っている。

 だからこそ、森洋史がウォーホルに惹かれ、ウォーホルの作品になにかしらの共感を覚えているのではないか、と想像するのだ。作品を詳細に見てみよう。キティちゃんが登場する《Cream of Hello Kitty Soup》は搾りたてと書いてある。スープ缶の上には、とろりとなっているキティちゃんが見えるが、可愛いものだらけの缶のデコレーションや背景からは、ルンルンする気分が漂っている。《Consomme LEGO MIX soup》ではどうやら、レゴを煮た出汁だけを缶に詰めたような、レゴの1ピースの色1つ1つが際立つように描いている。これは、興味と愛情、そして自分だけのオリジナルを詰め込んだ、ポップカルチャーの缶詰たちなのである。「大好きなものに囲まれて生きることがすべて」のコレクター達に向けて、好きな気持ちを詰め込んだ森洋史の今回の作品は、新しい年、2025年の私たちへの大きなプレゼントになっている。

(参考図書:『現代美術 ‐ ウォーホル以後』美術出版社、1990)

森洋史 個展「もしもこんなキャンベルスープの缶があったら・・・
/If There was Impossible Campbell’s Soup Cans…」
「もしもこんなキャンベルスープの缶があったら・・・/If There was Impossible Campbell's Soup Cans…」森洋史 個展ロゴ画像

2025年1月11日(土)~2月5日(水)
東京/FOAM CONTEMPORARY(銀座 蔦屋書店内)

時間/11:00~19:00 ※最終日は18:00まで
定休日/月曜日 ※1月13日(月)も休廊
入場/無料

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